Fahrenheit -華氏- Ⅱ
成田空港第二ターミナルの国際線出発ロビーは、朝早くだと言うのに今から搭乗という人たちで賑わっていた。
搭乗のチェックインを済ませ、手荷物以外のスーツケースをチェックインカウンターに預けた。
この後、手荷物検査と、出国審査と言う面倒な手続きが待ち構えている。
アメリカなんて旅行以外行ったことないから、しかもここ数年は中国、韓国などの近隣国以外出向いてないので、忘れちまっていた。
それでも瑠華は手馴れているのか、「少し時間が余ったからコーヒーでも」と、喫茶店を指し示した。
目の前に出されたコーヒーカップに視線を落とす。
これを飲んだら、瑠華は遥か遠く…海の向こうに行ってしまうんだ。
そう思うと、自然ため息が出る。
「そんな顔しないでください。すぐに戻ってきますから」
苦笑しながらタバコを取り出し、見慣れないシルバーのジッポライターで火をつける。
ピンクゴールドのボディに、淡い白色で、女の横顔を象ったカメオが施されている変わったデザインのものだ。
フリントホイルを擦ると、シュッと心地よい音がした。
オレンジ色の炎が出て、その瞬間僅かに覚えのある香りが漂ってきた。
これって―――
「ファーレンハイトです。
綿(ワタ)にあなたの香りを染みこませてあるの。
と言っても、機内に持ち込めないんですけどね」