Fahrenheit -華氏- Ⅱ



うちのバスルームは瑠華のマンションより広くない。


重なるように体を密着させて狭いバスタブに浸かりながら、俺は彼女を抱き寄せた。


瑠華は湯の上にアヒルのおもちゃを浮かべて泳がせていた手を止め、首を捻った。


「どうしたんですか?」


「んーん。やっぱ瑠華が居るってのはいいなぁって思っただけ」


しんみり言って俺は彼女の頭のてっぺんにこつんと顎を乗せた。


「前から思ってたけどさぁ、瑠華って一緒に風呂に入りたがるよな♪どーして?」


「時間短縮です」


返ってきた言葉はさらりとそっけない。


こいつめ!可愛い顔して、何気にひでぇな。


それでも俺は小さな彼女を抱きしめて、束の間幸せだった。


風呂から上がると、瑠華は野菜たっぷりのリゾットを作ってくれた。


「食欲のないときはこれに限りますよ」


そう言って出してくれたリゾットを口にすると、風邪のせいで味覚がおかしかったけれど、まずくはなかった。


瑠華は以前自分は料理が苦手と言っていたが、そんなことはない。


普通にうまい。味付けも俺好みの薄味だし。


何で下手だと思い込んでいるのか、そっちの方が謎だ。


「瑠華ちゃんの作っただし巻き卵が食いたいな。ふわふわで旨いんだ」


なんて上目遣いで甘えてみると、、


「溶き卵に濃い目のだし汁と、隠し味に白醤油とみりんを少々入れて焼くんです」


なんて淡々と説明してくれた。


「え?それはもしかして自分で作れと?」


俺病人ですよ。あなたはONIですか??と言うと、瑠華はめんどくさそうにあさっての方を見ていた。


相変わらず冷たいのね…クスン




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