Fahrenheit -華氏- Ⅱ
そんなわけで少なめによそってくれたリゾットを綺麗にたいあげると、俺は買ってきた薬を飲んだ。
薬なんて滅多なことがない限り飲まないからな…しかも寝不足もあって。
効き目はすぐに現われた。
30分もすると猛烈な眠気に襲われたわけだ。
早々にベッドに入ると、瑠華は布団を被せてくれた。
「瑠華ちゃんは?寝ないの…?」
もしかして、帰っちゃうとか!?
恐る恐る聞いてみると、「まだ片付けが残ってますから。スーツケースの中の整理とかしたいし」なんて言ってリビングの方を見やる。
「……そう。ごめんな、疲れてるだろうに、やらせちゃって」
嬉しさで頬を緩ませながらも俺は謝った。
「気にしないでください。今日はゆっくり休んでくださいね」
そう言って微笑みながら、瑠華は俺にチュっとキスをしてくれた。
「移るよ?」
「今更何言ってるんですか。それにあたしこの間風邪引いたんで、免疫できてます」
なんてよく分からない理由を聞きながら、俺はいつしか眠りに入っていた。
暗くなった視界の端に、蝶の羽がちらりと映った。
黒い色の中に鮮やかな青を浮かび上がらせた、綺麗な蝶だった。
俺はその小さな蝶を目で追い、やがてその蝶の行方を追うようについて行った。
羽を羽ばたかせ、蝶はゆらゆらと俺の前を舞っていく。
蝶はやがて何かの先に止まった。
俺も足を止め、その先に視線を移す。
真咲―――……
暗闇に浮かんだ真咲は、先日外灯の下で見た姿と同じだった。
真咲が腕を差し伸べ、指差した先に蝶は止まっていた。
そしてそのまっすぐに伸ばした指先は
俺を指していた。