Fahrenheit -華氏- Ⅱ
「支配……?そんなつもりはないわ」
真咲はちょっと悲しそうに眉を寄せて笑った。
「じゃ、何だよ。俺が就職したら結婚する気だろ?そんでもってうまく行きゃ社長夫人だ」
うまくやったもんだぜ……
内心俺は毒づいたが、それは口に出さなかった。
「あたしがただ単に社長夫人の座が欲しくてあんたと結婚したいって思ってるの?」
「…………」
俺が何も答えないことを肯定ととったのか、真咲はちょっと心外そうに眉をひそめた。
「あたしはただ寂しかったのよ。最近あんたは妙に冷たいし、まぁバイトも忙しいから疲れてるってのはあるだろうけど…
それでも急に誰かに優しくされたら、その誰かに縋りたくなることくらいあるじゃない」
だから俺にも否があると言いたいらしい。
意図的に冷たくしてたわけじゃないけれど、思い返せば最近はそっけなかったかもしれない。
だけどそれで一線を踏み越えるかどうかは別だ。
しかし結局俺は反論もできずに、その日はそのまま別れた。
それから一ヶ月。
真咲の浮気を知ったからか、俺たちは妙にぎくしゃくして、それでいて小さな喧嘩が絶えなかった。
そんなあるとき、小さなことが原因で真咲は、
「別れる」と言い出した。