Fahrenheit -華氏- Ⅱ
瑠華は口から煙をふっと吐き出すと、俺の手の中にそのライターをそっと置いた。
「あなたが持っていてください。いつでも二人一緒だってことを思い出せるように」
瑠華は、そのカメオの女のように穏やかな微笑みを浮かべた。
瑠華のライターの中に、俺のファーレンハイト。
いつでも一緒
俺はそのライターをぐっと握りしめた。
すっかりぬるくなったコーヒーを一口飲んで、彼女に笑顔を向ける。
「サンキュ♪でも瑠華ちゃんは?俺ばっか貸してもらって、君は何か持っていかないの?」
と言っても機内に持ち込めるのは決められてる。
時計は―――渡したし…
「あたしにはピヨコが居るから大丈夫です」
スチャッと取り出したのは、黄色いボディのひよこのぬいぐるみだった。
俺があげたぬいぐるみ。
俺も貰い物だったんだけどね。
瑠華はとても大切にしている。俺のところで埃被っていた頃とは雲泥の差で、優遇されてるピヨコ。
だけど…
「丁度この首の部分が頭にフィットして、枕にするには最高なんですよね」
大切にしてるのか、そうじゃないのか…
瑠華はピヨコの頭から胴体に繋がるラインをそっと撫でた。
ってか俺が彼女の枕になりたい!
「ピヨコが大きくなったらその部分は、“せせり”になるんだよ♪」
大切にされてるピヨコにちょっとヤキモチを妬いて、ちょっと意地悪言ってみたり。