Fahrenheit -華氏- Ⅱ
「瑠華……」
俺は彼女の名前を呼んだ。
だけど弱々しい声は、部屋の静寂に吸い込まれ、遠くまで届かない。
俺は布団を跳ね除け、ベッドを飛び降りた。裸足で大またに歩くと、勢い良く寝室の扉を開ける。
バタン!
扉が開く派手な音がして、キッチンに立っていた瑠華がびくりと肩を揺らした。
「ど、どうしたんですか?」
瑠華はキッチンのコンロに向かって何かを作っている最中なのだろう。慌てて火を止めると、俺の元へ駆け寄ってきた。
大きめの白いシャツ一枚に、赤い縁取りのメガネ。
瑠華が寝る前の格好だ。
普段通りの瑠華を見て、俺は言いようのない安心感を覚えた。
「ごめんなさい。うるさかったですか?」
彼女はちょっと慌ててキッチンの方を振り返る。
俺はそんな彼女を抱き寄せると、しっかりと腕の中に抱いた。
「んーん…。怖い………夢見た」
俺の腕の中で瑠華が小さく笑い声を漏らした。
「子供みたい」
そう言ったが、手のひらは俺の背中を優しく撫でてくれていた。
瑠華の手に触れられるとドキドキするし、嬉しくなって、その先を求めたくなる。
いつもはそうだけど、今は
ひどく安心する。
このままそうしていて欲しかった。