Fahrenheit -華氏- Ⅱ
汗をかいたので、俺はパジャマを着替えることにした。
そのあとに、また同じように体温計で瑠華は熱を測り、
「汗をかいたからかな、だいぶ下がりましたけど、油断は禁物ですね。もう少し眠ってください」と淡々と言い、俺をベッドに寝かしつけた。
相変わらず一体何度あるのか教えてくれない。
「知ったら後悔します。知らない方がいいんです」なんて真剣に言って、彼女は体温計をしまった。
知らないほうが―――
瑠華はさっきと同じように布団を俺に被せると、キッチンに戻っていくと思いきや、俺の隣に潜り込んできた。
「啓が寝るまでここにいますよ。だから安心して眠ってください」
そう言って優しく微笑み、瑠華は俺の額にそっと手を這わせた。
ひんやりと冷たい感触に、俺はちょっと気持ち良さそうに目を細めた。
額にかかっていた前髪を撫で上げ、何度も何度もそのゆっくりとした動作を繰り返す。
何でだろう…
俺はふと幼かった頃の自分を思い出した。
それはうんと昔…
小さかった頃、熱を出して寝込んでいた俺に母親も同じことをしてくれた。
こうすることで体に直接的な治癒力を与えるわけじゃないのに、その動作は…その温もりは、とても安心できて
いつも俺は知らない間に眠りについていたっけ。
瑠華も自分の娘にこうやって額を撫で上げてやったことがあるのだろうか。
もしそうだとしたら……
彼女の娘は、瑠華にすごく愛されていたんだな…
真咲も―――俺と結婚していたなら、今頃自分の子供にそうしていたに違いない。
真咲との過去は―――俺は瑠華に言うつもりはない。
そう。彼女が言ったとおり、知らない方がいいのだ。