Fahrenheit -華氏- Ⅱ
「みなさん、おはようございま~す」
俺の睨みに動じず、二村は相変わらずへらっと緊張感のない顔で近づいてくる。
相変わらず無駄に元気なやつ。
「二村さんも召し上がります?お土産のチョコレート」
瑠華はチョコレートの箱を軽く持ち上げ、二村に見せている。
「え?いいの~?」と、二村はフレンドリー。
佐々木だって瑠華には敬語で喋ってんのに、お前はもっと気ぃ遣えや!
苛々した面持ちで椅子に腰掛けると、
「久しぶりだね。俺、柏木さんが居なくて寂しかった~。あれ、髪伸びた?」
とさりげなく瑠華の背中に垂れた髪の一房を手に取る。
!!
何触ってンだよ!
って言うか、一週間で伸びるわけないだろ!!
って言うか、お前は瑠華の髪にただ触りたいだけだろーーー!
叫びだしそうになるのを堪えて、俺はぎりぎりとマウスを握った。
二村は……
まぁ男女問わずこんな感じだから、特に下心があるとかじゃないだろうけど。
だから特に瑠華も気にしてない様子で、今もマイペースにパソコンに向かっている…
それでも
面白くない。
「前から思ってたけどさぁ。柏木さんの髪って本物?」
「偽ものって何だよ」
俺は思わず二村を睨んだ。