Fahrenheit -華氏- Ⅱ
スラリと背が高く、スタイルも姿勢も良い。
濃紺の上品なスーツ。短かい髪は緩やかなパーマがかかっていて、大きめのフープのピアスだかイヤリングだかが、耳からぶら下がっている。
遠目からでも分かる。
いい女だった―――
誰だぁ?前に一度寝たことのある女かな…
硝子越しに視線が合って、数秒遅れで俺も目を開いた。
真咲―――………
な…何であいつが―――?
葬ったはずの記憶が鮮やかに甦る。
いや―――今の今まで本当に忘れていた。
『啓人―――』
真咲が俺を呼ぶ声が鮮明に耳の奥で甦った。
どれぐらいだろう。数分…?いや、実際には数秒だったかもしれない。
互いに目を開いたまま、その場で固まっていた。
やがて女は、連れの男に促され、慌てて俺から視線を外すとその場から立ち去っていった。
『あたしはあんたを一生許さない』
最後に聞いた真咲の言葉が―――
まるで呪縛のように俺を支配する。