Fahrenheit -華氏- Ⅱ
話が長くなりそうだったので、「また昼休みにでも聞くよ」と適当にあしらった。
「昼休み~?いいですね。じゃ、外でランチでもご一緒しませんか?♪葉月いいお店見つけたんですよ~♪」
と緑川はご機嫌に続けてくる。
めんどくさいけど…これ以上今はこいつの言動が会社の運命も変える(大げさ?)わけで、俺はとりあえず大人しく従うことにした。
しっかり昼飯の約束を取り付けて、緑川はご機嫌に帰っていった。
俺も自分の持ち場に戻ると、佐々木が鬼のような形相で俺を睨んできた。
「どこ行ってたんですか!5分ほど前から、打ち合わせ予定のセントラル紡績さんがお見えですよ!」
「え?あれっ??もぉそんな時間…?」
「まったく。しっかりしてくださいよ」
はいはい。
すみませんね、しっかりしてなくて…お前は俺のおかんか。なんて思いながら資料を用意する。
セントラル紡績と言やぁ、まだ取引最中のTUBAKIウエディングから紹介されたと言って、話を持ち込んできた会社だ。
東星紡みたいな世界規模の大企業じゃないが、日本ではそこそこ名の知れた企業だ。
担当者と再三電話で話を交わしたが、利益計算などをして、悪い話ではない。
でも…また生地の話かぁ……
俺は真面目にパソコンに向かっている瑠華をちろりと見た。
彼女は淡々と事務作業をこなしている最中だった。
俺が無言で「お願い♪」視線を送っていると、瑠華は俺の視線を最初の頃は無視していたが、じとっと見つめられ、やがて根負けしたのか席を立ち上がった。