Fahrenheit -華氏- Ⅱ


「セントラル紡績ってアメリカンウェストスターには及びませんけど、結構大きな会社ですよね」


廊下を歩きながら、瑠華は資料をぱらぱらとめくっている。


「そ。こっちのメインは主にカーテンを中心にするインテリア生地なんだ。取引相手にフランスの企業を希望しているが、何せコネがない」


俺は早口で大まかな内容を説明した。


「私もフランスでは流石に…」


「イギリスのローズウッドはどうゆうコネ?ファーレンハイトで取引してた相手なの?」


何気なく聞いた。特に他意があったわけじゃない。


ただ気になっただけ。


だけど瑠華は足を止めるとファイルをパタンと閉じ、俺を上目遣いに見て来た。


「聞きたいですか?」


相変わらず表情のない顔……


何を考えてるのかさっぱりだ。





聞きたい……けど…今は時間がない。




俺は無理やり笑顔を浮かべて、先を促し話題を変えることにした。


「俺もフランスは範囲外だなぁ。大体フランス語なんて“ダンケシェーン”しか分かんねぇよ。ま、向こうの話を聞いてみるか」


何でも無いように言って、打ち合わせ用の応接室に向かう。


瑠華もそれ以上何も言わずに、俺のあとを大人しくついてきた。


その背後から


「部長」と鋭い声が飛んできて、俺は条件反射でびくりと足を止めた。


「ダンケはドイツ語です。フランスでは“メルシー”。そんな簡単なこと間違えないでください。しっかりしてくださいね」


ため息交じりに話すいつも通りの瑠華を見て、


「はい!すみませんでしたっ」と、俺は敬礼姿勢。


いつも通り……


だけど、先が思いやられる。






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