Fahrenheit -華氏- Ⅱ
どうして真咲が―――!?
セントラル紡績に就職したってことか……?
この取引は偶然?
それとも――――必然だったのか?
「はじめまして。わたくし柏木と申します。神流の下で補佐をしております」
「はじめまして。お会いできて光栄です」
そんなやり取りをしながら、両者が名刺交換をしている。
俺が真咲から名刺を受け取るとき―――僅かに指が震えていた。
「外資物流管理本部、本部長…?」真咲は俺の肩書きを読み上げ、そしてにっこりと笑顔を浮かべた。
「お若そうに見えるのに、すごいですね。お若い…ですよね?」
真咲の唇が少しだけ意地悪く曲がった。
知ってるくせに。
俺は無理やり愛想笑いを浮かべて、それには答えなかった。
真咲はそれ以上突っ込みはせず、名刺と瑠華の顔を見比べながらちょっと驚いたように目を見開いた。
「柏木―――様?この間成田空港にいらっしゃいましたよね」
瑠華はちょっとびっくりしたように面食らって、それでもすぐにいつもの調子を取り戻した。
「ええ。真咲様も空港へ?」
「はい。イギリスに出張に行くときでした。柏木様も出張で?」
真咲はにっこり笑顔を浮かべている。
何故そんなことを聞くんだ。
真咲―――その笑顔の下で何を考えている―――…?
背中に冷たい何かが流れ落ちるのを感じた。
俺は気づかれないよう、瑠華に貰ったリングの辺りをそっと押さえた。
ちらりと瑠華の首元に視線をやると、彼女の華奢な首にも上品に輝くチェーンがぶら下がっている。
ペンダントトップの変わりにくくらせてあるのは、俺と同じリングだ。
そのことを思うとちょっとほっとし、それでも探るように視線を険しくさせていると、真咲は急に俺の方へ笑顔を向けてきた。
ちょっと驚いて、俺は唇を結んだ。
「海外への出張は多いのですか?」
「ええ、まぁ。私なんかは時々中国の方へ足を運びますが……」
何とか返して、俺は二人をソファに座るよう促した。