Fahrenheit -華氏- Ⅱ
「単刀直入に聞く。何企んでるんだ?」
俺はコーヒーのカップを持ち上げると、真咲はもったいつけるように、ことさらゆっくり小さくなったタバコを灰皿に押し付けた。
その動作に、俺は苛々とこめかみを掻いた。
「何だよ、また金でもせしめに来たのか?」
「随分な物言いね。あたしがいつあんたにたかったって言うのよ」
真咲はさも心外だ、と言わんばかりに眉を吊り上げた。
俺は冷ややかにその表情を見て、腕を組んだ。
喉の奥から唸るような声が出る。
「良く言うぜ。俺に100万ふっかけた張本人が」
俺の言葉に真咲はふっと冷笑を浮かべた。
「手切れ金よ。安いものでしょ?」
そう、俺と真咲がファミレスで別れ話をした後―――実は後日談があった。
その一週間後に、真咲が俺の元に訪れてきたのだ。
「お前から別れてほしい、って言ったんじゃねぇか。俺はそれに同意しただけだ」
「良く言うわよ。ほっとしたくせに」
「………」
否定はできない。真咲が言った言葉は事実だから。
少しの沈黙が降りてきた。
客がまばらだからより一層―――俺たちのテーブルの周りの空気はしんと静まり返っている。
店内には緩やかに
ショパンの“別れの曲”が流れていた。