Fahrenheit -華氏- Ⅱ
分かってる……
悪いのは俺だ。
だから今更真咲が無茶なことを吹っかけようと、俺に怒る義理はない。
だけど、お前はそれでいいのか?
一生俺を恨み続けて…その感情だけで生きていく道筋に何の疑問も抱かないのか?
―――なんて都合のいいこと考えてる俺…
でも譲れないものはある。
なんとしてでも守り抜きたいものがある。
だから俺はお前を敵に回しても―――例えどんな結末が待っていようと
俺は小さく決意を固めて、伝票を握った。
――――
――
社に戻り、エレベーターに乗り込み、扉が閉まりかけたとき、
「まっ!待ってください!」と入り口から駆け足でこちらに向かってくる女を見て、俺は慌てて“開”ボタンを押した。
ピンヒールの音を鳴らして走ってきたのは、秘書課の瑞野さんだった。