Fahrenheit -華氏- Ⅱ
たくさんのファイルを抱えて、膝に手を着くと、
「良かった~、間に合って」と瑞野さんは少し微笑んだ。だけどすぐに箱の中に居るのが俺と気付くと、
「神流部長!す、すみませんでした!!」と恥ずかしそうに顔を赤らめて、頭をばっと下げる。
「いや、いいよ。重そうだね、半分持つよ」そう言って俺は瑞野さんの腕からファイルを抜き取った。
半分と言ったが、これぐらいだったら軽々全部いけそうだ。
「い、いえ!大丈夫です!」
慌てて首を振る瑞野さん。初々しいその行動にちょっと気が緩む。
真咲のあの飄々とした態度のあとだから余計だ。
ちなみに瑠華だったら「いえ。結構です」なんて一言で遮断されそう…
「あのっ。本当に大丈夫です」瑞野さんが慌てて手を差し出してきて、さらりと長い髪が揺れた。
細くて白い首がちらりと見える。別に敢えてそこを見ようと思ったわけじゃない。
何となく視線がいったから。
だけど…
その首筋に赤い痕がぽつりと浮き出ているのを見て、俺は目を丸めた。
ん!?
「あの……?」
瑞野さんが怪訝そうに目だけを上げる。
俺は慌てて目を逸らすと、なんでもないように
「いえ……なんでもないデス」と言って空咳をした。
う゛~~ん…おとなしそうに見えるけど。結構大胆だな…
瑠華なら絶対嫌がって付けさせてはくれないってのに。
それとも気付いてない??
ま、どっちにしろ、こんだけ可愛いけりゃ男だって居るよなぁ。
佐々木、残念だな。