Fahrenheit -華氏- Ⅱ
「瑠華―――俺の名前を呼んで―――?」
低く囁くと、瑠華はもう一度だけ振り返り冷めた視線で俺を見上げてきた。
そして何を思ったのか、
ギュ!
彼女は俺の靴にピンヒールの先で思い切り踏みつけてきた。
「いっ!!―――っでぇ!!」
あまりの痛さに俺が声を上げ、瑠華を思わず手放す。
俺の腕の中からさっと瑠華が抜け出すと、足を押さえてうずくまる俺を冷ややかな視線で見下ろし、ため息をつきながら腕を組んでいる。
初めて喰らったぜ。
前々から踏まれたら痛そうだなぁなんて思ってたけど、想像以上の攻撃力だ。
これだったら痴漢も逃げていくだろう。
俺は涙目になりながら、瑠華を見上げた。
瑠華はため息をつきながら、
「どうしたって言うんですか。そんな我儘言って…私を困らせないで下さい」
「いや…そーでしたよね。Sキャラは瑠華サン一人で充分ですよね」
何とか冗談を言いながらも俺はふらふらと立ち上がった。
すると意外なことに瑠華が俺の手を取り、助け起こしてくれた。
「ええ。あなたにサディズムな行動は似合いませんよ」
それって俺はやっぱMがお似合いだって言いたいの??
まぁ否めませんが……
「ごめんなさい」
俺はしゅんとうな垂れ、素直に謝った。
瑠華の前ではとことんかっこがつかない俺―――