Fahrenheit -華氏- Ⅱ
瑠華は飛び立っていった。
俺の元から。
―――
彼女の不在は
プライベートでもそうだけど、仕事にもかなり影響が出る。
「部長、LYL産業さんの件ですけど次月はどうされます?前月の入金も滞ってますけど」
と佐々木が書類を手に俺の顔を遠慮がちに見る。
「入金が確認できてからだ。そうでなけりゃ次からはテンパー(10%)のっけで行くと伝えろ」
「テンパー…そんな殺生な」
殺生って…キミ、いつの時代の人??
しょうがないだろ?遠慮や情けはかけてられない。
瑠華は…穏やかな口調の中に、まるでしつこい取立て屋のような雰囲気をかもし出し、いつも見事に売掛金を回収してくる。
見習いたいものだ。
TRRRR…
「はい神流㈱外資物流事業部、佐々木でございます―――はい。お世話になっております。………はい、少々お待ちくださいませ」
山のように積まれた書類に目を通している俺に、佐々木が
「部長、マサキ通商様からお電話です」
なんて声を掛けてきた。
俺は思わず握っていたペンを落としてしまった。
マサキ―――真咲………?
「お願いしていたプラスチック板の件で、とのことですが」
「ああ、正木通商ね。変わる」
危ない、危ない。
その名前に反応する俺。そうとうキてるな―――