Fahrenheit -華氏- Ⅱ
「それうまそうですね?何てランチですか?」二村は俺の手元を覗き込んで、目を輝かせる。
「あ~…表に出てたぜ?何だっけ?メカジキのムニエル?」
俺は緑川に同意を求めたが、緑川は曖昧に頷いただけ。
何だぁ?
さっきまであんなにハイテンションだったのに、急に消沈して。
いつもなら誰が来ようが、そのテンションを保ったままだって言うのに。
瑞野さんが居るから、居心地悪いのかな。
そういや瑠華にもやたら突っかかってけど、その攻撃的な部分が今はなりを潜めている。
俺はちらりと瑞野さんを見たけど、こっちも居心地が悪そうに俯いていた。
女同士喧嘩でもしてるのかな?そーいや同期だったよな。
っつても、緑川と瑞野さんの接点もなさそうだし。
う゛~~~ん……
この異様な空気に俺があれこれ考えている中、二村だけはどこまでも能天気。
「ホントは柏木さんを誘いたかったんだけど、断られちゃって~」
なんて言い出しやがった!
はぁ!?瑠華を連れ出そうとするんじゃねぇ!!
彼女は俺のだっ!!!
と叫び出したい気持ちを押さえつつも『ギリギギ…』俺はナイフで音を立ててメカジキを切った。
その様子を前から見ていた緑川が、ここになってようやくちょっと笑顔を見せる。
俺は何だか味方を得たような気分になり、ちょっと安心した。