Fahrenheit -華氏- Ⅱ
社内には既婚者が結構居る。その中の大半はいつも奥様が作ってくれた弁当持参だ。
家計のためだろうと思うケド、愛妻弁当なんて前はまるきり興味がなかった。
なのに……
うまそうに食事をする男たちを見て、俺も食ってみたくなった!
単純??
と言う訳で、「弁当作って~」と頼み込んで、「面倒くさい」やら「啓の方がお料理上手じゃないですか。自分で作ってみては?」なんて答えが返ってきた。
ばかだなぁ、“彼女のお手製”ってとこに醍醐味があるんじゃないか!
半分予想してたことだけどね…クスン。俺は寂しい…
それでもめげずにしつこいぐらい頼み込んでようやく作ってくれた弁当を食べてるところを目撃されたってわけだ。
ああ……俺って運がないなぁ。
「旨かったですか?♪」なんて二村はにこにこ聞いてくる。
「そりゃもう♪」なんて素で返しちまって、俺は慌ててポーカーフェイスを装った。
「男の人ってやっぱり嬉しいんですか?そうゆうの?」緑川が聞いてくる。
「まぁ人によると思うけど?俺はやっぱ嬉しいな。君も手料理を彼氏に振舞ってやったら?男の心を掴むには胃袋を掴むのが手っ取り早いぜ?
男なんて単純だからさ」
ちょっと笑って、「なぁ二村」
斜め前に居る二村に話を振ると、二村はまさか自分に振られるとは思ってなかったのだろう、弾かれたようにびくりと肩を震わせた。
何か……緑川も変……だけど―――こいつもちょっと変。
微妙な空気が流れて、俺は話題を逸らすために隣で大人しく話を聞いていた瑞野さんに話を振った。
「瑞野さんの得意料理って何?」
「えっと……なんでもしますけど、特に和食が……」
なんてちょっとはにかみながらもちゃんと返事が返ってきた事に俺はほっと安堵した。
「和食。いいねぇ。いつ嫁にいってもいいじゃん」