Fahrenheit -華氏- Ⅱ
桐島の嫁さんが産気付いた。おめでたいことなのに、真咲のことを考えて俺はなんとなく沈んだ気持ちで部署に帰った。
「おかえりなさい」
出迎えてくれたのは瑠華一人だった。
瑠華ちゃん♪
ちょっと沈んでたからかな。瑠華の顔見ると急に元気になる俺。
しかもおじゃま虫の佐々木は今いないし!
だけど、
「部長が戻られましたので、私もお昼に行って来ます」と立ち上がる瑠華。
えぇ~~~?せっかく二人きりだって言うのに、席外しちゃうの??
しょんぼりと椅子に座る俺のデスクに、瑠華の綺麗な手が乗った。
顔を上げると、「先ほどTUBAKIウエディングの香坂さんからお電話ありました。折り返しのお電話宜しくお願いしますね。それから休暇前の案件で今日稟議を作成しましたので、メールで送っておきました。確認したら、上に上げて置いてください。それから…」
「はい。分かりました」俺は瑠華の言葉を遮って、軽く手を上げた。
仕事中に甘い雰囲気を求める俺がバカでした。
ごめんなさい。そんな気持ちで頷くと、瑠華は「よろしい」って顔で颯爽と立ち去っていってしまった。
つ、冷たい………
俺、本当に瑠華の彼氏だよねぇ?と時々疑いたくなる。
でもここは職場だしぃ?瑠華は仕事に情熱を持って打ち込んでるから、俺が悪いんだよね。
と無理やり思い込むことにして、俺はパソコンに向かった。