Fahrenheit -華氏- Ⅱ
そんなことを思っていたからかな。村木のコソコソ電話の話が余計に怪しく思えてきた。
「―――え?………いや、無理だ。今は下手に決められない」
下手に決められない?―――何をだ……
「―――、第一、その日俺は大事な会議がある。無理だ」
会議?いつの会議だ。俺は頭の中でめまぐるしくスケジュール表を開いた。
ダメだ。
会議なんてしょっちゅうやってるから見当がつかん。
「今は大事な時期なんだ。今年度は新部署も立ち上げたからな」
新部署―――俺の部署だ……
やっぱり村木お前―――
「―――あの小ざかしいくそガキに負けるわけにはいかないんでね」
その言葉を聞いて、俺の額に血管が浮かんだ。
村木ぃ。てめぇ、くそガキとかぬかしやがって!!お前はくそじじいだっ!
ギリギリと壁に爪を立てていると、
「―――じゃ、また連絡する」と、村木は前触れもなく突如通話を切り上げた。
語尾に苛立ちを滲ませていた。
俺は慌てて傍にある給湯室に隠れた。っても隠れる場所なんてねぇ。
しかも体がでかいからすぐにバレる。
何気ないふりで冷蔵庫を開けると、俺は冷蔵庫の中を漁っている振りをした。
村木の靴音が近づいても、給湯室の前で立ち止まる気配はない。
そのまま行き過ぎてくれて、ふぅと吐息をついた。
それにしても―――村木……一体何を企んでるって言うんだ?