Fahrenheit -華氏- Ⅱ


そんなことを思っていたからかな。村木のコソコソ電話の話が余計に怪しく思えてきた。


「―――え?………いや、無理だ。今は下手に決められない」


下手に決められない?―――何をだ……


「―――、第一、その日俺は大事な会議がある。無理だ」


会議?いつの会議だ。俺は頭の中でめまぐるしくスケジュール表を開いた。


ダメだ。


会議なんてしょっちゅうやってるから見当がつかん。


「今は大事な時期なんだ。今年度は新部署も立ち上げたからな」


新部署―――俺の部署だ……


やっぱり村木お前―――


「―――あの小ざかしいくそガキに負けるわけにはいかないんでね」


その言葉を聞いて、俺の額に血管が浮かんだ。


村木ぃ。てめぇ、くそガキとかぬかしやがって!!お前はくそじじいだっ!


ギリギリと壁に爪を立てていると、


「―――じゃ、また連絡する」と、村木は前触れもなく突如通話を切り上げた。


語尾に苛立ちを滲ませていた。


俺は慌てて傍にある給湯室に隠れた。っても隠れる場所なんてねぇ。


しかも体がでかいからすぐにバレる。


何気ないふりで冷蔵庫を開けると、俺は冷蔵庫の中を漁っている振りをした。


村木の靴音が近づいても、給湯室の前で立ち止まる気配はない。


そのまま行き過ぎてくれて、ふぅと吐息をついた。


それにしても―――村木……一体何を企んでるって言うんだ?




< 216 / 572 >

この作品をシェア

pagetop