Fahrenheit -華氏- Ⅱ
「じ、じゃぁさ!メンタルクリニックはついていくよ。たぶんそれぐらいには終わらせられると思うから」
俺は話題を逸らすように、会話を変えた。
瑠華はちょっと目だけ上げると、
「付き添いなんて結構ですよ」と言ってきた。語尾に子供じゃあるまいし、という意思を感じた。
「いや…付き添いもそうだけど……俺は単に瑠華と一緒に居たいから」
そう言って俺は瑠華の横に突っ立て居る自販機をちらりと見た。
この自販機があるお陰で、外から瑠華が影になって見えないはず―――
ぎゅっと瑠華を自販機に追いやると、「何なんですか?」と怪訝そうな顔をしている瑠華の手をきゅっと握った。
相変わらず冷たい手だけど、すごく安心するんだ―――
一応プロポーズには色よい返事をくれたけど、指輪だってくれたし、俺が我侭言っても何だかんだ言って結局優しくしてくれるし―――
それでもマックスのことや、俺自身のこと
真咲の出現や、会社の事情。
色んなことが複雑に絡み合って、俺はどこか不安だった。
この手を離さないように―――
しっかりと繋いでいたい。