Fahrenheit -華氏- Ⅱ
誰かに自分の彼女を堂々と紹介するのって、何だか恥ずかしくもありくすぐったくもある。
だけど、こんなにも清々しくて気持ちのいいものだって同時に気付かされた。
「はじめまして」瑠華は丁寧にお辞儀をしたので、店主の方が面食らったようだ。
だけどすぐに人懐っこい笑顔を浮かべて、カウンターを手で指し示す。
「堅苦しいことはなしで、まぁその辺適当に座って」
俺は瑠華を先に促して彼女を座らせると、俺はその横に落ち着いた。
「啓人、今日はいい日本酒が入ってるんだ。せっかくだから飲んでいけよ」
店主がにこにこ笑顔をして、さりげなく高い酒を売り込んでくる。
面白いけど…あなどれないやつだぜ。
「悪いけど、俺今日車なんだ。瑠華は?」
「啓が飲まないのなら私も結構です」おしぼりで手を拭きながら、瑠華はメニュー表を見ている。
「お勧めは何ですか?」と俺に聞かれ、「これとね、これとね~」なんて指差していると、
カウンターの奥で店主がにんまり。
な、何だよ。
「お前随分丸くなったな。昔はナイフみたいに尖って触れるものはみんな傷つけてたのにな~」
どこかで聞いたフレーズに、俺は店主を軽く睨んだ。
「俺は悪ガキでも不良でもねぇよ。あんたってチェッカーズ(※)ファンだっけ?」
(※ギザギザハートの子守唄はチェッカーズさんの歌です)
「いや。でも俺にとってはお前はいつまでも悪ガキで、不良だ。俺は充分、分かってるよ。
ついでに言うとお前が何に卒業したのかも、俺には分かる」
店主は笑いながら、つき出しを出してくれた。
彼は―――瑠華が俺にとって本気の相手であることを瞬時に見抜いたようだ。