Fahrenheit -華氏- Ⅱ
「極端なのもどうかと思いますけれど、あたしは啓のそうゆうところ好きですよ?」
信号が青色に変わる瞬間、瑠華が呟いて俺はちらりと彼女の横顔を視界に入れた。
彼女の口元に淡い笑みが浮かんでいて、でもその笑顔に複雑な何かを見た気がする。
瑠華はきっと俺の母親に自分の姿を重ねているのだ。
手放した子供のことを……今でもずっと想ってる。愛してる。
だから俺が母親のことを思い出すことが、瑠華にとっては嬉しいことに繋がっているんだ……
そう言えば桐島の嫁さんのマリちゃんも陣痛がはじまったって言ってたし、今日ぐらい生まれるかも。
一方では血の繋がらない子供を、自分の分身のように愛そうとし、一方は血の繋がった子供を手放さなければならない。
どの家族も―――
複雑な事情と心境を抱えている。
彼女らが抱く気持ちはどれも深くて、俺には計り知れないけれど、
根本はきっと同じ。
俺が母親のことを思い浮かべるような―――底にはあるのはただ“愛情”
いつか……
いつか笑顔で娘と再会できることを祈って―――俺は夜の街に車を走らせた。