Fahrenheit -華氏- Ⅱ
俺はびっくりしてそのまま飛び上がりそうになった。
瑠華が俺のすぐ背後に居た事に全く気付かなかった。
明らかに挙動不審な俺を見て、瑠華は怪しむように目を細めている。
「る、瑠華ちゃん、早かったのね」
良く見るとバスローブ姿だったし、瑠華の髪はまだ乾いていなかった。
「ドライヤー前のトリートメントを切らしていて、取りに来ただけです」
そっけなく言って瑠華はくるりと踵を返す。
ドライヤー前のトリートメント…長いと色々大変なんだな…
って今はそんなこといい!
俺は慌てて瑠華を引き寄せると、
「桐島の子供無事産まれたって!」
と興奮気味に言いながら、携帯の写メを彼女に見せた。
瑠華は携帯の画面を覗き込むと、びっくりしたように目を丸め、そしてすぐに穏やかな微笑みを浮かべた。
それは気を遣ったり合わせたりの作り物の笑顔じゃなく、心の底から安堵したようなそれでいて嬉しさを滲ませている。
「良かったですね。おめでとうございます」
彼女の言葉はお世辞じゃなく本物で―――二人を本当に祝福していた。
―――
――
瑠華が肌と髪のお手入れが終わらせると、リビングに来て赤ワインのボトルを取り出した。
綺麗にカッティングされたバカラのグラスを二つテーブルに並べて注ぎいれると、
「桐島さんご夫妻に」と言って軽くグラスを傾ける。
俺も笑顔で
「桐島夫婦に」と言って俺たちは笑顔でグラスを重ね合わせた。