Fahrenheit -華氏- Ⅱ
カットしたチーズをかじりながら、
「お祝いは何が良いだろう。あいつら(裕二&綾子バカップル)にも相談して決めるかぁ」
なんて漏らすと、
「ベビー服とかはすぐに大きくなるから、長く使えるおもちゃなんかがいいと思いますよ?今はそうゆう乳児用のおもちゃがたくさん出回ってるから」
と瑠華が隣でワインを口に付け、答えてくれた。
瑠華も子供が生まれたとき、やっぱり方々から祝いの品を貰ったんだろう。
世界の名だたるヴァレンタイン財閥の子供となりゃ、それはそれは豪華で、さぞかしたくさん頂いたに違いない。
そんなことをぼんやりと考えると、瑠華は残り三分の一程度になったグラスをテーブルに置き、ソファを立ち上がった。
そのままテラスに続く、今はしっかりとカーテンが下りている窓へと足を向ける。
オフホワイトの生地に、上品なゴールドの刺繍の入ったイタリア製のカーテンの向こう側には夜の東京のパノラマビューが広がっている。
白いシャツ一枚を羽織っただけの瑠華の姿がカーテンに溶け込んでいるように見えた。
瑠華はカーテンをちょっと開くと、地上でなく、空を見上げる。
瑠華の視線の先に何があるのか、俺も彼女にならってその視線を辿ってみると、深いビロードを敷いたような夜の空に
ぽっかりと月が浮かび上がっている。
今夜は下弦の月だった。
欠けていく月は―――
雲が少ない空に、その輝きは美しいまではっきりと目に映った。
瑠華が空を見上げてカーテンの端をぎゅっと握るのを見て、俺もソファを立ち上がり彼女の隣まで歩いていった。