Fahrenheit -華氏- Ⅱ
その晩はベッドに入って眠りにつくまで誰からも着信やメールはなかった。
それでも俺はいつ真咲から連絡が入るのか、気が気でならなかった。
瑠華は無断で携帯を見るような無粋な真似はしない。
もちろん俺だってしたことがない。
だけど、瑠華と一緒に居るときに真咲から連絡がきたら?
平静を保てる自信は欠片もなかった。
今日は乗り切ったが、明日は?明日も乗り切れても明後日は?
終わりのない迷路のような不安を残しつつも、俺は瑠華を腕に抱いていつしか眠りに入った。
―――……
遠くで波の音がする。
砂浜をゆっくりと滑る波音が心地よくて、俺はじっとその音に耳を傾けた。
それが朝なのか夜なのか分からない。
だけどまるで包み込むように心地よく吹く風は気持ちいいものだった。
目を開けようとする。
だけどその瞬間、波の音がぴたりと止んだ。
いぶかしげに思って目を開けると、
辺りは一面の暗闇だった―――
そしてまるで引いたり満ちたりするようなリズムと音量で
赤ん坊の声が暗闇に響き渡った。