Fahrenheit -華氏- Ⅱ
―――
「―――い!啓!」
揺すられて、俺ははっと目を開いた。
照明を落とした薄暗がりにぼんやりと心配そうに眉を寄せる瑠華の顔が浮かんでいて、俺は息を呑んだ。
「どうしたんですか?酷く魘されてましたよ」
瑠華は俺の両肩を掴んでいる。その掌から瑠華には珍しく少し熱い体温が伝わってきた。
瑠華を起こしてしまうほど、魘されてたってわけか……
俺は思わず顔を覆った。
額やこめかみに嫌な汗が浮かんでいて、思わずため息が漏れる。
羽毛布団を肩まで掛けてるから本来なら暑い程なのに、足のつま先から寒気が這い上がってくるようだ。
「……ごめん、今何時?」
かすれた声で何とか聞くと、瑠華は枕元に置いた携帯を手にして「明け方の5時です」
と小さく答えた。
5時…ベッドに入ってから二時間程しか経ってない。
脳化学的に言うと、ノンレム睡眠からレム睡眠に変わる頃だ。
※個人差があります。
そう、俺は―――夢を見ていたんだ。
嫌な夢だ。
夢を見て魘されるなんてどうかしてるぜ。
「…起こしちゃってごめん」
瑠華に謝ると、「いいえ。大丈夫ですか?」と言いながらも俺の隣にもぐりこんでくる。
そのリアルな温もりが俺を安心させてくれた。
俺が瑠華の小さい体を抱きしめて、再び目を閉じると、
瑠華は俺の背中にそっと腕を回してきた。