Fahrenheit -華氏- Ⅱ
「まだ体が本調子ではないんじゃないですか?熱は下がったようですけど、ちょっと鼻声だし…」
心配する瑠華の頭を撫でて宥めると、
「俺はいつもこんな声よ?でも、心配してくれてありがとな」と言い、布団を引き上げた。
瑠華は納得がいかないのか、「でも…」と言いつつも、俺が黙っていると寝たと思ったのか静かになった。
それから数分後、彼女から小さな寝息が聞こえ俺も安心した。
このまま彼女を抱きしめて眠りにつきたかったのだが―――眠りは一向にやってこない。
体は疲れ切っている筈。眠る前にワインを飲んだからアルコールも効いているはずなのに―――
俺は眠るのが怖かったのかもしれない。
目を閉じたり開けたりして、それから二時間ほどやり過ごしそれでも7時になると俺は諦めて起き出した。
俺が起きるとその気配を察したのか、瑠華も起き出してきて、眠そうにしながらもコーヒーを淹れてくれた。
風変わりな香りのするコーヒーだ。
「せっかくの休みだし寝てていいのに。病院の予約時間までまだ時間あるだろ?」
テーブルの向かい側でメガネ姿のまま新聞を読んでいる瑠華に、俺は笑いかけた。
少しだけその笑顔が引きつっているように自分でも感じたが、何でもない素振りでコーヒーのカップに口を付ける。
「これ!うまいね!ちょっと変わった味だけど」
瑠華はメガネの奥でじっと目を細め、新聞を下げると
「やっぱり変」と疑り深い視線を投げかけてくる。
「それコーヒーじゃないです。紅茶ですよ」
「え゛!?」