Fahrenheit -華氏- Ⅱ
ひっきりなしに鳴る電話。
出たり入ったりの他部署の社員たち。
朝からずっとこんな調子。もう、それこそ便所に行く暇もないぐらい。
おまけに、
「柏木さん、2009年の資料だけどさ…」と言いかけて俺は口を噤んだ。
女神の席は、空席だった―――
仕方なく佐々木の方を振り返ると、こいつも電話対応であくせくしている。
「仕方ねぇな」
俺は自分で資料を取りに行くことにした。
資料室は廊下の一番奥にある。
結構でかい部屋で、フロアの各業務の資料をまとめたファイルが書棚にぎっちり詰まってる。
俺は
4ヶ月程前、この資料室で瑠華と初めてキスをした。
6月中旬の梅雨真っ只中の、蒸し暑い日だった。
今は換気用に作られた申し訳程度の小窓から、秋の風を爽やかに感じる。
季節の移り変わりに伴い、俺たちの仲もちょっとずつ変化が見れた。
俺は瑠華をあのとき以上の気持ちで、愛しているし、
彼女も俺に心を開いてくれた。……と、思う。ってか、思いたい。
瑠華―――
今頃、空の上かな?
ピヨコを枕にして寝てるかな?
そんなことをぼんやりと考えて、俺は窓の外を見上げた。