Fahrenheit -華氏- Ⅱ


すると二村はちっとも嫌そうな顔をせずに大きな欠伸を漏らし、


「一段落したところです。昨日徹夜しちゃって」


「ああ…村木んとこにいるとコキ使われて大変だよな」


二村の話をほとんど右から左へ聞き流し、キーボードに指を滑らせる。


「あ!」


またも二村が何かに気付いたのか声を上げた。


「んだよ」若干苛立ちながらも振り返ると、俺の後ろで二村はにんまり。


残念ながらキスマークならつけてねぇぞ。昨日はヤることヤらないで、すぐに寝ちまったからな。


そんな思いでいると、二村は予想外の言葉を口にした。


「意味深な左手薬指のリングはっけ~ん♪」


「え?」


慌てて見やるも、そうだった…


今日は休日出勤だし、別につけててもかまわんだろうと思い“ここ”にはめたんだっけ。


瑠華にも強引に同じ場所につけさせて、今朝の悪夢はどこへやら、俺は上機嫌だった。


「あ~あ、いいなぁラブラブで。ね、部長の彼女ってやっぱり美人なんですか??きっとそうですよね」


といつもの質問が繰り出され、二村は犬のように纏わりついてくる。


「いつも思うケド、何で俺の彼女のこと聞きたがるんだ?知ったって何の徳にもなんねぇじゃん」


軽く受け流しながらも俺はやっぱり疑問に思っていた事をさらりと聞いた。


二村はにこにこ笑顔を浮かべながらも、


「女の子たちに言われてるんですよ~。神流部長の彼女ってどんな人か聞いてきてって」


「あ、そ。んじゃその子たちに教えてやれ。


俺の相手は男だ。カノジョじゃなくカレシだってね」





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