Fahrenheit -華氏- Ⅱ
瑠華のすぐ後ろ―――肩の辺りに白くて小さな手が乗っている。
半分透き通っていて、柔らかそうな小さな……小さな手。
赤ん坊の手だった。
見間違い……
俺は目を慌ててこすったが、その手は消えなかった。
瑠華の背後には赤ん坊を抱きかかえた人間はおろか、誰もおらず―――瑠華もその手の存在に気付いていないようだ。
論理的に考えて、赤ん坊の手が瑠華の肩にかかっているわけがない。
俺の全身は冷水をかけられたように冷え切って、体が硬直した。
表情を強張らせている俺を瑠華は怪訝そうに見下ろしてきて、彼女の背後の手がゆっくりと開かれた。
俺は目を開いて一歩進むと、
「中に入れ!落ちるぞ!!」
と自分でもびっくりするぐらいの怒鳴り声をあげていた。
俺の怒鳴り声にびっくりしたのか瑠華は一瞬目を開いたものの、小さく頷いて体を翻した。
彼女の背中が俺の目に映って―――
でも
やはりその背中には何も映っていなかった―――