Fahrenheit -華氏- Ⅱ


頼りがいがあるし、いつもさりげなくリードしてくれる大人の人なのに、啓の妬きもちはまるで子供そのもの。


可愛いけど、ちょっと意外…


心音が年下と見たのも無理がないわね。


心音―――


日本に帰ったら、早々に動き出すことを彼女には伝えてある。


ただ―――まだその時期じゃない。


失敗は許されない。


どんな小さなひずみも狂いも見逃せない。


万全な準備を整えて、それでも急がなければならないことは分かっていた。


問題はいつ―――仕掛けるか……




啓はタバコを吸うと持ち前の好奇心を発揮してあちこちをきょろきょろ。


待合室をちらりと覗いては、


「すっげぇ患者の数だね。あ、子供も居る。意外に多いんだな」なんて振り向く。


「だけどみんなふつーだよね。どっこも病んでなさそう」


「見た目だけですよ。あたしだって普通に見えるでしょう?」


「瑠華は普通じゃなくて、すっげぇ美人だぜ?」


そう返すと、啓はふっと笑った。


答えになってませんが。


ま、いいか。




その無邪気な笑顔を見ると―――いつも小さなことはどうでもよくなる。あたしの決心は鈍りそうになる。


啓を裏切るわけじゃないけれど、



でも心苦しい。





< 248 / 572 >

この作品をシェア

pagetop