Fahrenheit -華氏- Ⅱ
それから40分程待たされて、いい加減くたびれてきたとき、ようやく
「柏木さん。柏木 瑠華さん。診察室にお入りください」と声がかかった。
あたしが腰を上げると、啓は
「ゆっくりね」と微笑みを浮かべて、軽く手を上げていた。
いつも一人なのに―――
あたしは急に支えてくれる人が居るって実感できて、嬉しくなった。
診察室の扉を隔てても、同じ空間に彼が居る。
そう思うだけで心強い何かを得た気分になった。
「こんにちは、柏木さん。今日は随分と顔色がいいわね。調子も良さそう」
ふっくらとした優しそうな中年女性医師に笑いかけられ、あたしは微笑を返した。
毎日何十人と会う患者の少しの変化も、この医師は覚えている。
現在のストレス社会に置いて心の病になる若者は多いと聞くが、急増する患者に対して流れ作業的な処置を施さず、きっちり患者と向き合うこの姿勢があたしは好き。
「最近どうですか―――?」
そう聞かれて、あたしは一番最初に啓の姿を思い浮かべた。
彼の居る生活。
彼と机を並べて励む仕事のこと。
彼の思いやり。
全部、全部―――あたしの中は啓でいっぱいだ。
.。・*・。..*・ Side Ruka End ・*..。・*・。.