Fahrenheit -華氏- Ⅱ
「お疲れ様で~す♪」
すぐ近くで声がして、俺はびっくりした。
誰か人が入ってきたようだが、それすらも気付かずにぼんやりとしていた。
そして分厚いファイルを抱えた女子社員を見て更にびっくり。
出たな!シロアリ緑川!!
シロアリの正体は先月まで俺の部署に居た社員で、緑川副社長の一人娘だ。
同期の桐島の結婚式に参加したとき、俺は何故かこいつに見初められた。
副社長の娘と言う権限を振りかざし、本社の俺の部署に異動してきたわけだが、彼女の「好き好き」猛攻撃を難なく(?)交わし、
約束の一ヶ月を過ぎた今は、横浜支社に帰ると思いきや、なんと隣の情報管理部に居る。
何でも、情報管理部は今、超が付くほど多忙だとか。
それで雑用しかこなせない緑川もコピー取りや電話対応の為、引っ張られていったというわけだ。
「部長も探し物ですかぁ?」
くねくねとしなを作って、俺に擦り寄ってくるところがもうホント、シロアリだ!
「まぁね。君も?」
「はい~♪アメリカンウェストスター社の資料を探してるんですぅ」
アメリカンウェストスター…東星紡―――?
「何でそっちが?」
と言うものの、東星紡の案件は外資がTUBAKIウエディング相手に取引を持ちかけた会社だ。
「ん~わかんない」
と緑川はどこまでも頼りなげ。
陰険村木の仕業だな?
俺は視線を険しくさせた。