Fahrenheit -華氏- Ⅱ
瑠華が診察室に入って5分が経過していた。
一人になると急に、嫌な考えが浮かび上がり俺は思わず眉間を指でつまんだ。
あの赤ん坊の姿は……
一体何だったんだろう―――
白昼夢とか言いようがない。
だとしたらはじめて見たけど。
ちなみに俺には霊感なんてこれっぽっちもない。
見たこともないし、感じたこともない。
ホラー映画やお化け屋敷とかは大丈夫な方だけど、目の前でリアルなものを見ると、さすがの俺も居竦んだ。
昨夜のアルコールはすっかり抜けているから酔っ払った上での幻覚―――とも言いがたい。
ちなみに怪しいクスリもやってない。
きっと真咲が現われて、俺自身精神的に参っているんだな。
そう考えるしかなかった。
そうじゃなかったら、今更何故俺の前に現われる―――?
五年前は何故現われなかった―――?
白昼夢や幻覚に理屈を求めても、それが何もならないことは分かりきっていたのに、
考えられずには居られない。
だってあの小さな手は―――
瑠華の背中を押そうとしていたように―――
見えたから。