Fahrenheit -華氏- Ⅱ



瑠華が診察室に入って5分が経過していた。


一人になると急に、嫌な考えが浮かび上がり俺は思わず眉間を指でつまんだ。


あの赤ん坊の姿は……


一体何だったんだろう―――


白昼夢とか言いようがない。


だとしたらはじめて見たけど。


ちなみに俺には霊感なんてこれっぽっちもない。


見たこともないし、感じたこともない。


ホラー映画やお化け屋敷とかは大丈夫な方だけど、目の前でリアルなものを見ると、さすがの俺も居竦んだ。



昨夜のアルコールはすっかり抜けているから酔っ払った上での幻覚―――とも言いがたい。


ちなみに怪しいクスリもやってない。




きっと真咲が現われて、俺自身精神的に参っているんだな。


そう考えるしかなかった。





そうじゃなかったら、今更何故俺の前に現われる―――?


五年前は何故現われなかった―――?




白昼夢や幻覚に理屈を求めても、それが何もならないことは分かりきっていたのに、


考えられずには居られない。





だってあの小さな手は―――




瑠華の背中を押そうとしていたように―――





見えたから。






< 251 / 572 >

この作品をシェア

pagetop