Fahrenheit -華氏- Ⅱ
実際はそうじゃないかもしれない。
俺の目にそう見えただけで、全て幻覚に過ぎない。
病院に向かうときに考えていたことだ。
もう一度瑠華を見たとき、彼女の背後に赤ん坊の姿がなかったら―――
やっぱり俺の見間違いだったと思う。
そう決めて、瑠華を迎えに行くと―――やっぱり彼女の背後には何もなかった。
って言うか、幽霊じゃなく、赤ん坊でもない、余分なオトコがついてたけど!
もしかしてそれが一番性質が悪いんじゃないの?
そうだよ……
幻覚なんてそんな非現実的なことありえないっつうの。
現実には瑠華を狙う男どもがわんさか。
そっちの方が俺にとって脅威だ。
俺は腕時計を見た。
瑠華が診察室に入っていって20分経過している。
な、何話してるんだろ…
さっきまでの赤ん坊の幻覚に怯えていたドキドキとは違う意味の緊張を感じながら診察室の茶色い扉を眺めていると、
ガチャ
「お大事にしてください」と声と共に、ちょっと顔色を青くした瑠華がよろけるように出てきた。