Fahrenheit -華氏- Ⅱ


チェックのふわりとしたシャツの袖が捲くられていて、片方の手で腕を押さえている。


「ど、どーしたの!?」


青白い顔をした瑠華を隣の椅子に座らせると、瑠華は力なく俺にもたれかかってきて


「血液検査…」とぽつりと漏らした。


「血液検査??」ここって精神科だよね?そんなんもんするの?
(※病院によって異なります)


「薬が体に悪影響を及ぼしてないか、何回か一回に検査をするんです」


語尾が消え入りそうになっている。


も、もしかして……


「注射苦手?」とか??


瑠華は俺にもたれかかったまま無言だ。眉をしかめている。


やっぱり!


そっかぁ。瑠華にも苦手なもんがあるんだなぁ。


って言うか注射嫌いとか、可愛いし♪


俺はぐったりしている瑠華の頭を軽く撫でると、彼女の髪からシャンプーの香りが漂ってきた。


柔らかくてサラサラした髪の手触りが心地良い。


「啓は注射大丈夫ですか?」ちょっと顔を上げて瑠華が聞いてきた。


「え?俺?まぁそこまでダメじゃ…靭帯の手術したときの麻酔が切れたときの痛みに比べりゃ…」


と言うと、瑠華はますます顔を青くして俺に寄りかかってきた。


瑠華って結構怖がりだよな♪


夜の照明を落としたオフィスで脅かすと、可哀想になるぐらいびっくりしてたし。


ホラー映画はダメじゃないだろうけど、見てるときは俺にしっかりしがみついてくるし♪それはそれでラッキ~♪


だけど映画『アダムスファミリー』に出てくる手首(から下だけ)の化け物“ハンド”を見てるときだけは食い入るように見つめて、


「あれ、便利ですよね。あたしも欲しい」なんて真剣に言ってったっけ。


俺、よく瑠華が分からないよ。


便利…って言うかあれ一応ペットだよね??


あれに朝、揺すられて起こされたら…


イヤーーーー!!そう叫んで、思わず飛び起きるだろう。


俺はあんな気持ち悪い生き物にちょこちょこ動き回られたら、それこそ家出するね。



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