Fahrenheit -華氏- Ⅱ
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「お待たせいたしました」
小さな応接室に通されて数分後、菅井さんが現れた。
一人だけ。真咲の姿はなかった。
とりあえずはそのことにほっとする。
「突然の訪問お許しください」俺は頭を下げた。
「いえ。先ほど柏木さまからご連絡がありました。ご用件はわかっています」
菅井さんはあっさりと言った。
瑠華……
俺が出かけている間に大まかな説明をしてくれたようだ。
さすが、気が回る。
って感心してる場合じゃないな。
「この度は本当に申し訳ございませんでした。わたくしどものリサーチ不足で、そちらにご迷惑をお掛けして」
俺が深々と頭を下げると菅井さんは慌てた。
「いえ。無理を言ったのはこちらですから、しょうがないですよ。アザールは大手ですしね、こちらとしても分不相応ってことでしょう」
菅井さんはにこやかに笑って、ゆったりと出されたお茶に一口口を付けた。
「……でもアザールが無理となると、どこか他を探さなくては…」
と湯のみを起きながら、彼は真剣な目を俺に向けてきた。