Fahrenheit -華氏- Ⅱ


――――


「お待たせいたしました」


小さな応接室に通されて数分後、菅井さんが現れた。


一人だけ。真咲の姿はなかった。


とりあえずはそのことにほっとする。


「突然の訪問お許しください」俺は頭を下げた。


「いえ。先ほど柏木さまからご連絡がありました。ご用件はわかっています」


菅井さんはあっさりと言った。


瑠華……


俺が出かけている間に大まかな説明をしてくれたようだ。


さすが、気が回る。


って感心してる場合じゃないな。


「この度は本当に申し訳ございませんでした。わたくしどものリサーチ不足で、そちらにご迷惑をお掛けして」


俺が深々と頭を下げると菅井さんは慌てた。


「いえ。無理を言ったのはこちらですから、しょうがないですよ。アザールは大手ですしね、こちらとしても分不相応ってことでしょう」


菅井さんはにこやかに笑って、ゆったりと出されたお茶に一口口を付けた。


「……でもアザールが無理となると、どこか他を探さなくては…」


と湯のみを起きながら、彼は真剣な目を俺に向けてきた。








< 257 / 572 >

この作品をシェア

pagetop