Fahrenheit -華氏- Ⅱ
「ええ、それで色々考えたのですが、やはりフランスの企業は私どもの会社でもコネをあまり持ち得ておりません。
うちは割と英語圏が強いので。イギリスやアメリカなど…大きな国でしたら、その道のスペシャリストがおりますので、取り引きもスムーズにいくかと」
「なるほど、柏木さまですか」
菅井さんはゆるく笑って、再び湯のみに口を付ける。
「TUBAKIウエディングの香坂さまから、柏木さまは大変やり手だと伺いました」
「はは…」
これには俺も苦笑いしか返せなかった。
やっぱ瑠華の力は強いな…
「まぁ女性同士分かり合える部分もあるんですかね」と菅井さんは穏やかに微笑む。
「私は真咲と組んでいるのですが、女性特有の観点から商品を見つけ出し、ヒットさせるんです。私なんてお恥ずかしいですが、その辺のセンスはなくて」
恥ずかしそうに笑って菅井さんはお茶を置いた。
真咲という名前が出てきて一瞬ドキリとして、身が強張った。俺はそれを隠すためにことさら明るく返した。
「いえ。私もTUBAKIウエディングさんにお話をいただいたときもかなり手こずりました。男なんてそんなもんですよね」
何でもないように茶を啜り、思い立ったように顔を上げる。
「そう言えば今日真咲……さんは…」
「真咲は外回り中です。午後まで帰ってこないつもりです」
と菅井さんは別段不審そうにせず、さらりと言った。
外出中。
その事実が俺の心臓をほっと宥めた。