Fahrenheit -華氏- Ⅱ
「真咲と言えば―――TUBAKIウエディングさんにそちらを紹介してもらうようお願いしたのも彼女なんです」
菅井さんは思い出したかのように顔を上げた。
「真咲さんが?」
「ええ。神流さんは物流を手広く手がけておいでですが、海外まで手を伸ばしていると知ったのはつい最近のことです。色々調べたら今年の四月に立ち上げされたんですね」
やっぱり真咲が俺に接触を図ったわけか―――
おかしいとは思った。新しい取り引き会社の割りに話がスムーズに進みすぎだ。
そんなことを思いながら茶を啜ると、菅井さんは向かい側で目を細めて俺に問いかけてきた。
「真咲と神流さんは―――以前からのお知り合いのようですね」
「え………?」
あまりの突然の、それも確信をついた質問に、俺はうまく切り返せなかった。
「真咲から聞きました。同級生だとか」
「え、ええ。まぁ大学のときの…」
真咲が菅井さんにどこまで喋っていたのか分からず、俺も下手な嘘は付けない。
こめかみに汗が浮かんだ。
「最初は気付かなかったみたいですね。でも顔を見てぼんやりと思い出したって言ってました。すごい偶然ですよね」
偶然―――
そんなことあるか。
そして菅井さんもその事実に勘付いている。
“神流”なんて珍しい名字そうそういるわけじゃないし―――
そう分かっているくせに、菅井さんは敢えて真咲の言葉を信じているふりをしている。