Fahrenheit -華氏- Ⅱ
村木とは五十を少し越えた物流管理情報部の部長だ。
俺が入社するまではこの村木が部長になると噂されていて、本人もまんざらではなかったので、よっぽど悔しかったのだろう。
それも新しく部長の席に着いたのは自分の息子のような若造だ。おもしろくないに決まっている。
あれこれと俺を妨害して成績不振にさせ、俺が入社四年目にしてようやく退陣に追いやったわけだ。
晴れて今は物流管理部の部長。
しかし退陣に追いやった筈の若造は、守備よく新部署の部長に就任したので面白くない。
前に一度俺に嫌味を言って来たが、瑠華の猛攻撃にあいやり込められた。
以来あいつは瑠華を避けるように、関わらないようにしているようだった。
いいざまだぜ。
だがしかし!
瑠華が不在、あいつにとって好都合なのだろう、堂々と攻撃をしかけてきやがった。
TUBAKIウエディングの案件を横取りしようって作戦だ!
そうは問屋が卸さないぜ!
俺は緑川の背後に立つと、彼女の肩にそっと手を置いた。
緑川が不思議そうに振り返る。
そのまま背中を押すと、彼女を棚に押しやった。
「え?何ですか??」と緑川は目をぱちぱち。
俺は緑川に顔を近づけ、こいつの頭の上あたりに手を突いた。
緑川の強い香水に思わず顔を背けたくなったが、そんな気持ちを押し隠し、俺は緑川の化粧の濃い顔を間近で見下ろした。
「最近どうよ?」
唇の端を持ち上げて、俺は不敵に笑ってみせた。