Fahrenheit -華氏- Ⅱ
俺は少し俯いた。
勘ぐり過ぎだ。
菅井さんが―――例え俺と真咲の間に特別な関係があったと気付いても、それをあれこれ勘ぐってくる理由が思い当たらない。
ただの同僚だろ?
俺は菅井さんと真咲の間が特別な関係じゃないと思っている。
そんな雰囲気が微塵も感じられないからだ。
まぁ多少つくろってる部分はあるだろうけど、少なくとも真咲の方には彼にビジネスパートナー以上の感情を抱いていないだろう。
二人がもし恋人同士なら―――真咲が俺に近づいてくる理由が分からない。
それとも二人が結託して何かを俺に要求している―――……?
いや、それも違うな。
このいかにも人の良さそうな菅井さんがそんな卑劣なことを考えるとは到底思えない。
優しそうだが、自分の意見と考えをしっかり持っていそうだ。
たとえ真咲がけしかけようと、その辺の良識は持ち合わせているだろう。
それでも完全に罠にかかっていないという考えを捨てられないで、俺の頭の中にぐるぐると考えと想像だけが巡る。
そんな中、また菅井さんが口を開いた。よっぽど深刻な顔をしていたのだろうか。少しだけ気まずそうである。
「私なんて高卒なんで、一流大学を出たお二人が羨ましいです」なんて恥ずかしそうに笑って話題を変えた。
俺は顔を上げ、ちょっとだけ苦笑いを返した。
「一流大学ってわけじゃ。都内の大学じゃないですし」
すると菅井さんは意外そうな顔をして目をまばたかせた。
「そうなんですか?」
「ええ、お恥ずかしい限りですが、それほど名の通る大学でもないです」
「私はてっきり東大とか慶応を想像していました」
菅井さんは嫌味のない笑顔で返してきた。