Fahrenheit -華氏- Ⅱ
タバコに火をつけて、煙を吐き出す。
一連の動作だけでも何だか億劫だった。
「「「はぁ」」」
ほぼ三人同時にため息をついて、その場に居た俺たち三人は揃って顔を見合わせた。
俺や裕二がため息吐くってのは分かるけど…何で村木までも?
しかもすっげぇ重そうなため息。
魂まで口から出てきそうな勢いだぜ。
俺が訝しく村木を見ると、ヤツはバツが悪そうに顔をしかめ、乱暴にタバコを消すとさっさと喫煙室を出て行った。
「何だぁ、あいつ…」なんて思ってあいつの痩せた背中を見送っていた俺に、裕二はまたもため息をついた。
「お前も相当ヤバいな。まだ片付いてないんかよ」
自分が撒いた種だと思うが、このやつれ方はちょっと気の毒になってくる。
「ストーカー女さぁだんだんそのストーカーがエスカレートしてって。この頃俺が帰るとすぐに電話を寄越してくるんだ…」
ぅわ!本格的!!
「しかも綾子には浮気してるって疑われてるし…」
あー…そういやあいつ言ってたっけね??
「マジでお前綾子に全部ぶちまけて、警察に行ったら?」
俺の言葉に裕二はタバコをつまみながらも眉を吊り上げた。
「それができたら苦労しねぇって。大体そんな女に付きまとわれてなんて、カッコ悪くて言えるかぁ」
いや、かっこつけてる場合じゃないって。
俺の助言にも裕二は首を振って、結局あいつもタバコを吸い終わると自分のフロアに帰って行った。