Fahrenheit -華氏- Ⅱ
俺は咄嗟のことで、瑠華の手首を掴んでいた。
腕時計がある辺を―――
俺たちの会話を聞いていない瑠華は、俺の行動に訝しそうに眉をひそめる。
だけど俺が掴んでいた感触が―――
あれ……
違和感を感じて俺はゆっくりと手を離した。
二村はきょとんとして、瑠華は俺の意味不明な行動に一瞬だけ眉をしかめたが、それでもすぐに電話に向かう。
「―――I'm sorry.(失礼しました) ―――OK. See you later.(ええ。ではまた)」
通話を切りながら瑠華が怪訝そうに目を細める。
「どうしたんですか?」
「いや。ちょっと虫…そう、虫がついてて!」
俺は慌てて言うと、瑠華も慌てた。
「え?虫?」
シャツの袖口を振り払って、ちらりと見えたその細い手首にはめられた時計は―――
フランクミュラーのmomo2ではなかった。