Fahrenheit -華氏- Ⅱ


グッチの細いバングルタイプの腕時計。ピンクではなく、全体的に白っぽい。


瑠華の今日のお召し物は黒のセットアップスーツに、グレーのリボンタイがアクセントのカットソーだ。


その格好に合わせて時計を選んだのだろう。


「虫、取れました?」


瑠華が心配そうに聞いてくる。


「うん、取れた、取れた♪」慌てて言って腕を戻すと、俺の前で二村がにやにや。


「虫は口実で柏木さんに触りたいだけじゃないですか~?気をつけてくださいね。この人結構遊び人ですよ」


と二村は白い歯を見せて爽やかに笑って、瑠華を悪戯っぽく見る。


内容は全然爽やかじゃないが。


ってかお前と一緒にすな!


二村を睨んでいると、エレベーターが到達した。


瑠華は二村の言葉を真に受けず、


「早く行きますよ」相変わらずマイペースにさっさとエレベーターに乗り込む。その後を俺は慌てて追った。


扉が閉まる瞬間、





二村が意味ありげな冷笑を浮かべていたことに





俺は気付かなかった。












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