Fahrenheit -華氏- Ⅱ
会長室での話も特に問題はなく、親父も含めて俺たち三人はそれぞれ顔見知りでもあるわけだし、和やかに進んだ……わけではない。
ここはやっぱり仕事だからプライベートとは切り離して、親父は俺たちに厳しいことを言いながらも話は終わった。
それほど機嫌が悪いわけじゃなかったから妙なとばっちりも受けなかったわけだけど、
それでもフロアに戻るとぐったりと気が抜けた。
その後はスムーズに仕事をこなし、21時頃に瑠華が帰っていった。
「お先に失礼します」
「お疲れ~」
彼女が帰る間際ちらりと振り返って、その視線が「あとで連絡します」と物語っていた。
ちょっとのことだけど、それが幸せ。
あと少し、がんばるか!
そんな意気込みでパソコンに向かっていると、
俺のプライベート用の携帯に電話がスーツの上着の中で震えた。
ぎくりと身を強張らせると、
“着信:マサキ”になっていた。
この前赤外線で交換したナンバーだ。
でも70%以上の確率で、今夜連絡があることは想像していた。
身構えていた分、ダメージは少ない。
俺は携帯を手に、ブースを離れた。
隣の部署では村木を初めとする幾人か、まだ社員たちが残っている。
非常口の階段近くに身を潜めると、
鳴り続ける携帯を開いて通話ボタンを押した。