Fahrenheit -華氏- Ⅱ
「―――はい…」
無愛想に電話に出ると、
『もしもし?あたしよ』
とこっちも不機嫌そうな声。
「掛かってくると思った」
『でしょうね。あんまり動揺してないみたいだし』真咲が少し疲れたような声を滲ませて、ため息交じりに言った。言葉に覇気がない。
『ねぇ、今日これから会えない?』
まだ仕事が残ってる。無理だ。
普通ならこう答えていたに違いない。
でも真咲の抑揚を欠いた声に、思いも寄らず俺自身動揺していた。
「……急にどうしたんだよ」
『別に、急じゃないわ。ずっと思ってた。あなたに会いたいって』
搾り出すようなか細い声に、
数時間前に俺に怒鳴っていたあの覇気は微塵も感じられなかった。
俺はちょっとため息を吐いて腕時計を見ると、
「今から30分であがるから、この前のカフェで待っててくれないか?」
と答えていた。