Fahrenheit -華氏- Ⅱ
しかも婚姻届まで書いていることから、結婚間近である程親密だと言う事が分かる。
菅井さんも、真咲もそんな素振り見せなかった。
いや、同じ会社だし敢えてそう言う態度を取っていたといっても納得がいく。
現に俺だって瑠華との仲を社外はおろか、社内にだって気付かれないようにしている。
問題は―――菅井さんがどこまで知ってるかだ…
まさか全部を知ってるわけではないだろう。
これから結婚するっていう相手に昔の男が現われたら、いくら人の良さそうなあの人もさすがにいい気がしないはず。
だけど勘ぐってはいる―――?
俺は数時間前に会った菅井さんの顔を思い出した。
いかにも人の好さそうな―――悪意のない表情。
だけどその下に俺を陥れる何か考えがあるのなら―――……
だめだ
考えれば考えるほど―――
出口のない迷路にはまっていってしまう。
深いところまではまってしまって、そこから抜け出せないような―――
そんな気がした。
結局考えることは諦めて、俺はスーツの内ポケットにその婚姻届けをしまいこむと、残りのコーヒーを一気に飲み干して、
席を立った。