Fahrenheit -華氏- Ⅱ
啓の様子がおかしいので様子を見守っていようと決めていたけれど、そうも言ってられなくなった。
『中国のリゾート開発の件だけど、大元の会社の株価が下落していて、餌で吊った地元の企業が後ろ足踏んでる』
先日、心音からそう連絡があった。
真夜中の連絡に―――あたしの心臓が一瞬跳ね上がった。
『もう待ってられない。どの道それらの企業が落札することはないだろうけど、入札件数が少ないとヴァレンタインは乗ってこない』
心音の口調は淡々としていて、そこに焦りなど微塵も感じられなかったけれど、彼女から連絡してくることは珍しいことで……
いつまでも煮え切らないあたしに、痺れを切らしたのだろう。
「株価の下落……まずいわね。啓だってそこに目を付けるはず」
『だったらこれ以上下落する前に、何とか話をこじつけて。あんたが参戦しなきゃ―――何も始まらない。
いい?これが最後のチャンスよ。次は同じ手を使えない。今しかないのよ』
温度の感じられない冷静な声の心音が、いつまでもあたしの脳裏を支配する。
ヴァレンタインを相手取り、ファーレンハイトを取り戻すために組んだ複雑な回路は繋がりつつある。
なのに、あたしは最後の連結を今更ながら渋っている。
様子のおかしい啓と―――ファーレンハイト。
天秤にかけるわけじゃない。比べるものじゃないし、ましてやどちらかを斬り捨てられるほど―――
あたしは強くない。
それでも決断しなければならないのだ。